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国内バイオベンチャー売上ランキング~創薬のパラダイムシフトへ~

 

DNAらせん構造

バイオベンチャーに世界の資金が集まる

バイオベンチャーへの 投資熱が世界的に高まっています。米調査会社ピッチブックによれば、2018年の世界のベンチャーキャピタルによるバイオテクノロジー分野への投資額は155億ドル(約1.7兆円)に達し、10年で10倍近くに成長しました。

こうした分野に、グーグルアマゾンをはじめ米国大手IT企業や企業家たちが投資を加速させています。日本では楽天の三木谷社長が新たながん治療法(光免疫療法)を開発するベンチャーに個人で投資し、現在「楽天メディカル」として自ら経営を担っています。

また投資規模ではまだ少ないものの、近年急速に開発が進むのが、不老長寿研究の分野です。 老化は、がんやアルツハイマーなどの加齢疾患に共通する要因のため、老化自体を食い止める薬を作り出そうと、米国を中心にベンチャーが台頭しつつあります。

 

なぜ今不老長寿研究なのか

 世界各国において、がんや糖尿病、認知症などの加齢疾患が深刻化し医療費が増大しています。

またそれらの原因となる老化を病気としてとらえ、予防的治療を行う手法に注目が集まっています。

米グーグルも2013年に老化研究に特化したベンチャー「カリコ」の設立発表を行い、グーグル親会社のアルファベットとバイオ医薬品大手のアッヴィから計15億ドルを調達し、老化防止の医薬品開発を進めています。

 

 

そもそもバイオベンチャーとは 

バイオテクノロジーを主たる事業とする新興企業を指します。欧米では一般にバイオテクノロジーを扱う企業で設立時期の新しい企業に言及する際はスタートアップ、中小企業を表す際はSMEs(Small and Medium Enterprises)と呼んでいます。バイオテクノロジーの中でもバイオ系医薬品の開発を行う新興企業は創薬ベンチャーとも呼ばれます

 

バイオ医薬品と低分子薬の違い

われわれが日常的に病院で処方されたり薬局で購入する薬ほとんどは、「低分子薬」と呼ばれ、工場などで化学的に合成されたものになります。構造も比較的単純であり、大量生産も比較的容易です。

一方で「バイオ医薬品」タンパク質由来(ホルモン、インスリン、抗体)、生物由来の物質(細胞、ウイルス、バクテリア)から産生される医薬品で、通常の薬と比べて高分子非常に複雑な構造となっています。よく知られたバイオ医薬品としては糖尿病治療薬のインスリン製剤などがあります。バイオ医薬品は遺伝子組み換え技術や細胞培養技術など高度な技術を用いて製造される医薬品のため、国内でも製造できるメーカーは限られています。

 

バイオ医薬品のメリットとデメリット 

近年のバイオ医薬品の代表的なものとして、「抗体医薬」と呼ばれるがんや関節リウマチなどで使われる薬があります。この抗体医薬のメリットとしてはがん細胞などの細胞表面の目印となる抗原をピンポイントで狙い撃つことで、高い治療効果が期待でき、狙ったところだけに作用するため、従来の薬に比べて副作用も軽できます。また、抗体医薬に代表されるバイオ医薬品は、これまで治療薬のなかった難病などの希少疾病に対しても、効果が期待できるものが開発されています。反面、デメリットとしては、開発費用に対しての患者数の少なさから、薬価が高額になることがあげられています。

 

 

 

 

 創薬のパラダイムシフト

これまで多くの製薬は、大勢の患者に安全な医薬品を提供するため、医薬品開発は長期の研究期間が大前提で大規模な投資が必要でした。

一般的に基礎研究を除く開発期間は平均10年程度で、数百億円の資金が必要でした。このような経緯により、製薬企業も患者の多い薬(生活習慣病等のブロックバスター)を探索・開発してきました。

しかし近年はゲノム解析技術の進歩、バイオマーカー等の開発により創薬のパラダイムシフトが起こり、特定の患者群に対して、より高い効果が期待できる医薬品の開発にシフトしてきています。

そのため、これまでは資金力を背景にしたメガファーマが有利な状況でしたが、このパラダイムシフトにより、より専門的な高い技術を持って、小回りのきくバイオベンチャーが開発主体となってきています。

 

米国では新薬の半分がベンチャー企業、日本は遅れ

 国内の状況ですが、日本では長らくバイオベンチャーが育たないとい指摘されてきました。米国では新薬の半分がベンチャー由来だと言われますが、日本では成功事例が少なく、欧米に大きく後れを取っています。その要因として「カネ」「人材」「規制」に課題があるとされています。

日本もここ数年来はバイオベンチャーの振興に本腰を入れており、厚労省は「ベンチャー等支援戦略室」を新設し、ベンチャーやアカデミアと大手企業、金融機関、研究機関などのマッチングやネットワーキングを促進しています。

 

 

バイオベンチャー列伝―週刊東洋経済eビジネス新書No.112

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最後に日本おけるバイオベンチャーの売上ランキングをご紹介いたします。売上高は直近のデータからとっております。

 

科学者

 

バイオベンチャー(創薬ベンチャー)売上高ランキング

 1位:タカラバイオ 

 売上:358億4100万円、営業利益:54億6300万円

 宝ホールディングス株式会社のバイオ事業部門としてスタートし、2002年4月1日に分社化して設立。遺伝子と細胞を扱うバイオテクノロジーを中核とした事業を展開。売り上げの大半を占めるバイオ産業支援事業、遺伝子医療事業、医食品バイオ事業の3分野からなる。再生医療や細胞医療の分野の研究は今後増えていくことが予測される。

 

2位:JCRファーマ

 売上:231億6000万円、営業利益:49億6700万円

1975年に日本ケミカルリーチ株式会社として設立。研究開発型企業として、独自のバイオ技術と細胞治療・再生医療技術を活かした最先端の新薬開発に取り組む。2017年医薬品卸大手のメディパルホールディングスと業務資本提携契約を締結。

 

3位:そーせいグループ

 売上:97億2600万円、営業利益:3億8400万円

1990年設立。アルツハイマー病、統合失調症、がん免疫療法、片頭痛、依存症などの画期的なバイオ医薬品の創薬を目指している。2005年に英国の創薬ベンチャーを209億円で買収し、さらに2015年に同じく英国の創薬ベンチャーを480億円で大型買収を果たした。 一方で2019年に米ジェネンテックおよび武田薬品工業とそれぞれ1000億円超の提携を立て続けに結ぶ。

 

4位:ジーエヌアイグループ

 売上:74億4600万円、営業利益:9億7700万円

2001年設立。2007年東証マザーズ上場。遺伝子情報と解析技術を用いてがんと炎症についての研究を行う。中国、日本、米国に経営基盤を置き、主に中国で新薬探索、臨床開発活動を行う。

 

5位:カルバイオサイエンス 

 売上:32億700万円、営業利益:54億6300万円

大手製薬企業の研究部門が母体となって2003年に設立。細胞内、細胞間シグナルの研究を行い、革新的な創薬ターゲットおよび高価値の医薬品候補化合物をグローバルな製薬企業へと提供。キナーゼたんぱく質の阻害薬に特化した創薬基盤技術を持つ。

 

6位:シンバイオ製薬 

 売上:28億3700万円、営業利益:-43億6300万円

 患者数が少なく、これまで開発が見送られている希少疾病の新薬開発・提供を行う独自のポジションを確立している。グローバルに展開する新薬サーチエンジンにより、基礎研究を行わずにレイトステージに導入しうる新薬候補物を探索・選定する。そして臨床開発に特化することで承認・上市まで5、6年以内での実現を可能にしている。

 

7位:ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング

 売上:23億5700万円、営業利益:-3億4900万円

医薬品の質的変化をもたらすTissue Engineeringをベースに、組織再生による根本治療を目指す。ヒトの組織や臓器などの再生医療等製品及び関連製品の開発研究、製造、販売が主力事業。

 

8位:ラクオリア創薬

 売上:17億200万円、営業利益:-1500万円

2008年設立。医薬品の研究開発と臨床開発候補品及びこれらにかかわる基盤技術の知的財産の販売及び使用許諾を事業の柱とする。また企業及び大学との生物医学分野における知的財産の開発及び販売を目的とした提携も行う。

 

9位:ソレイジア・ファーマ 

 売上:13億1000万円、営業利益:-17億6200万円

がんの治療薬や支持療法薬剤などの開発・販売を手掛ける。日本はじめ中国などアジア圏で事業を展開している。

 

10位:オンコリスバイオファーマ

 売上:13億300万円、営業利益:-5億1100万円

新規抗がん剤テロメライシンを開発している。がん及び重症感染症を対象とした新薬を創出し、ウイルスの遺伝子改変技術を活かした新たな検査サービスを提供。2019年に「テロメライシン」の日本と台湾での権利を中外製薬に導出した。食道がんでの高い効果が期待できる。

 

その他注目の創薬バイオベンチャー

・ペプチドリーム

2006年設立、2013年マザーズ上場、現在は東証一部に上場。独自の創薬開発プラットフォームシステムにより、特殊環状ペプチドを多数合成しヒット化合物の創製やリード化合物の選択が簡便に行えるようにした。黒字化していて営業利益は年50億円を超える。現在、グローバル企業や日本の大手製薬会社計18社と共同開発研究を行っている。

 

・ナノキャリア

1996年創業し2008年マザーズ上場。先端技術「ミセルナノ粒子」を用いて、がん治療薬を開発している。単なる開発型ベンチャーではなく製薬企業を目指しており、台湾で生産工場の準備を行っている。2020年にはM&Aも含め1000億円企業を目指している。今後はがん領域に限らずミセルナノ粒子技術を活かした医薬品開発を行っていく。

 

・アンジェスMG

大阪大学の基礎研究を基に1999年に設立し、2002年に大学発の創薬ベンチャーとして初のマザーズ上場を果たした。次世代バイオ医薬に関する研究開発を行っている。2019年黒字化。HGF遺伝子を活用した製剤によって新たな血管ネットワークができる治療法で糖尿病などによる重症虚血肢への効果が期待できる。

 

・サンバイオ

再生細胞医薬品開発を目的として、2001年米国カリフォルニア州で設立。15年に東証マザーズに上場。現在、慢性期脳梗塞領域の治療薬「SB623」の開発が進んでいたが、米国での治験にて主要評価項目が達成できずに株価が暴落、「サンバイオショック」と呼ばれる。しかし、同剤への期待も高く、今後上市にこぎつけられるかに注目が集まる。

  

おわりに

「大阪大学発ベンチャーのビズジーン社が、新型コロナウイルスが早期発見できる簡易検査キットプロトタイプを4月中にも開発」と報道されました。また、3月5日には、大阪大学とバイオベンチャーのアンジェス社が、「共同で新型コロナウイルス予防用DNAワクチンの開発に乗り出す」と発表しました。すでにワクチンの設計は終了していて、早期の臨床試験開始が望まれます。今後、これら高い技術と軽いフットワークを持ったベンチャー企業が活躍できる環境整備をぜひ国にも支援していただきたいところです。

 

 

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