新型コロナの対策に伴うロックダウン(都市封鎖)によって、世界各地で大気汚染が改善しているとの報告があがっています。
大気汚染が深刻な国のひとつインドでは、3月25日のロックダウン以降、PM2.5の数値が改善傾向を続け、4月上旬にはインド北部で「過去20で最低の水準」になったとNASAのデータから判明しました。
そこで今回は世界のPM2.5濃度ランキングをご紹介いたします。
- PM2.5って何?
- 引き起こされる健康被害とは?
- PM2.5濃度の高い国ランキングTop10+G20※
- 大気汚染で年間880万人が亡くなる
- コロナによるロックダウンで世界の大気汚染が改善!?
- 中国で救われた命はコロナ死者数よりも多い!?
- まとめ
PM2.5って何?
PM2.5とは空気中に浮かぶ小さな粒子(エアロゾル)のうち、2.5μm以下の大きさのものを呼びます。もともと自然界にもこのサイズの粒子は存在しています。
他にも10μm以下の大きさを規定するPM10というものもあります。
このようにPM2.5とは、そもそもは粒子の大きさを規定しているだけでその中身を規定しているわけではありません。
しかし、人間社会の工業化や都市化によって急激に増えてきたことには間違いなく、そのことによって健康被害などの重大な問題が発生しました。
工場や自動車、船舶、航空機などから排出されたばい煙や粉じん、硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染の原因となる粒子状物質は、それを人間が吸い込むことで肺の奥まで入りこんでいき、さらに血流にのることで多くの健康被害が引き起こされます。
引き起こされる健康被害とは?
具体的な健康被害としては、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患、心筋梗塞などの心臓疾患、肺がんや皮ふ疾患などがあります。
日本呼吸器財団の調べによると、PM2.5が10μg/㎥増えると、心臓や肺の病気による死亡率が9%、肺がん死亡率が14%、全死亡率が6%増加すると考えられています。
世界のPM2.5基準値
現在、世界の主要なエリアにおけるPM2.5基準値は以下の通りになっています。
世界のPM2.5基準値
国 | アメリカ | EU | 日本 | 中国 |
---|---|---|---|---|
日平均 (短期基準) |
35 μg/㎥ | (none) | 35μg/㎥ | 75 μg/㎥ |
年平均 (長期基準) |
12 μg/㎥ | 25μg/㎥ | 15μg/m3 | 15 μg/㎥ |
基準設定年度 | 1997年基準設定 2008年規制開始 2012年基準家庭 |
2008年基準設定 2016年規制開始 |
2012年基準設定
|
2016年規制開始
|
続いてはPM2.5濃度の高い国のランキングです。
PM2.5濃度の高い国ランキングTop10+G20※
順位 | 国名 | 都市部のPM2.5年間平均濃度 |
---|---|---|
1 | ネパール | 99.5 |
2 | カタール | 91.7 |
3 | サウジアラビア※ | 86.7 |
4 | エジプト | 79.6 |
5 | ニジェール | 73 |
6 | バーレーン | 69 |
7 | インド※ | 68 |
8 | カメルーン | 65.4 |
9 | イラク | 60.1 |
10 | アフガニスタン | 59.9 |
15 | 中国※ | 51 |
26 | トルコ※ | 41.2 |
73 | 韓国※ | 24.7 |
75 | 南アフリカ※ | 24.3 |
97 | メキシコ※ | 20.9 |
129 | インドネシア※ | 16.4 |
134 | イタリア※ | 15.7 |
139 | ロシア※ | 14.7 |
151 | フランス※ | 12.4 |
158 | ドイツ※ | 11.9 |
159 | ブラジル※ | 11.8 |
159 | 日本※ | 11.8 |
161 | アルゼンチン※ | 11.7 |
169 | イギリス※ | 10.6 |
182 | アメリカ※ | 7.6 |
183 | オーストラリア※ | 7.3 |
185 | カナダ※ | 6.7 |
- | 世界平均 | 39.6 |
(出典:WHO 世界保健統計2018年版より、ランキングは189カ国の順位)
※はG20 加盟国
アジア、中東、アフリカなど途上国が上位に
上記ランキングの上位には、アジアや中東、アフリカなどの国々が占めています。
これはやはり、途上国が工業化・都市化していく上では避けて通れない道でもあります。
これまで先進国も同様に発展してきたことも事実です。しかし現在は、大気汚染が進んでいった先の未来の問題もわかってきているので、今後途上国が更に工業化を進めていく中では、国際社会が協力し環境保全対策や公害対策を行っていくことが非常に重要となってきます。
日本の順位は世界保健統計2018年版で159位/189カ国中(11.8μg/㎥)となっており、数値的には欧州諸国と同レベルにて推移しています。
大気汚染で年間880万人が亡くなる
2019年のドイツのチームの研究で、大気汚染を原因とする世界全体の死者数は年間880万人に上るとの衝撃的な報告がありました。これは従来のWHOの試算を2倍ほど上回る数字で、タバコを起因とする死者数をも上回る数字となっています。
2012年当時のWHO報告では、世界のPM2.5の排出量について試算すると共に、名指しこそ避けたものの、その大部分が中国とインドが発生地であるとされるデータが添えられていたとのことです。
その中国における大気汚染は、2013年に北京市にある米国大使館の測定値で、年平均100μm/m3を超える最悪の状況に陥りました。日本でもテレビのニュース等でたびたび北京の大気汚染の様子が報じられ、一部は西日本を中心に日本まで越境するなど問題になりました。
しかし、中国政府は2013年~2017年まで5か年計画を打ち立て、国を挙げて環境対策を強化しました。その結果、2014年以降、PM2.5濃度は年々数値を下げてきており、それに伴って日本へ越境するPM2.5も現在は低値になっております。
コロナによるロックダウンで世界の大気汚染が改善!?
新型コロナに伴う主要都市のロックダウンで、この数か月で世界各地の大気汚染が改善されたとの報告があがっています。
スイスの研究チームが世界10都市について調べたところ、10都市中7都市でPM2.5濃度が改善されていたとしています。
中でも世界で最も深刻な都市とされるインドのニューデリーでは昨年よりも60%低下し、同市とムンバイは史上最低の数値を更新したとのことです。また中国の武漢も昨年より44%低下していて、ロサンゼルスでは40%も改善したと報じられました。ヨーロッパでも、ロンドン、ローマ、マドリードでいずれも昨年よりも低下しました。
中国で救われた命はコロナ死者数よりも多い!?
米スタンフォード大学の研究でマーシャルバーク准教授は、中国の新型コロナによる経済活動の制限により、北京や上海など4都市のPM2.5の数値が、過去4年間の平均に比べ15~18μg/㎥減少したと算定しました。
この中国のコロナ対策に伴う大気汚染の改善によって救われた命は、5歳未満の子供で1400人~4000人、70歳以上の大人は5万1700~7万3000人と推定しました。一方、中国国内で新型コロナウイルスによって無くなった人の人数は5月14日時点で累計4637人と発表されております。
よって中国の大気汚染改善で救われた命は、コロナで実際に死亡した人数を大きく上回ることになります。
まとめ
- PM2.5とは自然界にも存在する2.5μ㎥以下の粒子状物質でサイズから規定される
- 引き起こされる健康被害は、呼吸器系疾患、心臓疾患、肺がんなど
- PM2.5濃度はアジア、中東、アフリカなど途上国で高く、日本は欧州並み
- 大気汚染によって年間880万人が死亡
- ロックダウンにより各地で大気汚染が改善、それによって救われた命も大きい
よって、大気汚染の抜本的な改善のためには、やはりこれまで同様にエネルギー源の転換政策や途上国などの環境対策が最重要課題であると考えられます。
大気汚染による死者数を発表したジョスレリーフェルド教授は、「エネルギー源を化石燃料から再生可能エネルギーに置き換えることが出来れば、パリ協定の目標達成に近づくとともに、欧州での大気汚染による死亡率を最大55%引き下げることが出来る」と試算しています。
https://www.mpg.de/12823232/polluted-air-shortens-the-lifespan-of-europeans-by-about-two-years
【参考】PM2.5濃度の国別ランキング(1位~189位)
順位 | 国名 | 都市部のPM2.5年間平均濃度(μg/㎥) |
---|---|---|
1 | ネパール | 99.5 |
2 | カタール | 91.7 |
3 | サウジアラビア | 86.7 |
4 | エジプト | 79.6 |
5 | ニジェール | 73 |
6 | バーレーン | 69 |
7 | インド | 68 |
8 | カメルーン | 65.4 |
9 | イラク | 60.1 |
10 | アフガニスタン | 59.9 |
11 | クウェート | 58.9 |
12 | バングラデシュ | 58.6 |
13 | パキスタン | 56.2 |
14 | 中央アフリカ共和国 | 51.2 |
15 | 中国 | 51 |
16 | チャド | 50.8 |
17 | モンゴル | 49.5 |
18 | 赤道ギニア | 49.1 |
19 | ウガンダ | 48.7 |
20 | スーダン | 46.8 |
21 | ナイジェリア | 46.3 |
22 | イエメン | 44.3 |
23 | タジキスタン | 42.8 |
24 | リビア | 41.7 |
24 | モーリタニア | 41.7 |
26 | トルコ | 41.2 |
27 | エリトリア | 41.1 |
28 | ジブチ | 41 |
29 | 南スーダン | 40.9 |
30 | ルワンダ | 40.7 |
31 | セネガル | 39.7 |
32 | ガボン | 37.8 |
33 | コンゴ民主共和国 | 37.4 |
33 | シリア | 37.4 |
35 | アラブ首長国連邦 | 37.2 |
36 | コンゴ共和国 | 36.4 |
37 | ブルキナファソ | 36.3 |
38 | オマーン | 36.2 |
39 | チュニジア | 35.7 |
40 | ブルンジ | 35.6 |
41 | ブータン | 35.4 |
42 | ミャンマー | 34.6 |
43 | アルジェリア | 34.5 |
44 | イラン | 34.4 |
45 | エチオピア | 34 |
46 | マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 | 33 |
47 | アルメニア | 32.9 |
48 | ガンビア | 32.3 |
49 | ヨルダン | 31.7 |
50 | カーボベルデ | 31.6 |
51 | トーゴ | 31.2 |
52 | ガーナ | 31.1 |
52 | モロッコ | 31.1 |
54 | 北朝鮮 | 31 |
55 | レバノン | 30.7 |
56 | ベナン | 30.4 |
57 | ベトナム | 30.1 |
58 | ボスニア・ヘルツェゴビナ | 29.7 |
59 | マリ | 29 |
59 | ペルー | 29 |
61 | ウズベキスタン | 28.9 |
62 | アンゴラ | 28.4 |
63 | レソト | 28.1 |
64 | ソマリア | 28 |
65 | タイ | 26.6 |
66 | ギニアビサウ | 26.5 |
67 | ケニア | 25.8 |
67 | スリナム | 25.8 |
69 | ラオス | 25.5 |
70 | サントメ・プリンシペ | 25.2 |
71 | タンザニア | 25.1 |
72 | カンボジア | 24.9 |
73 | 韓国 | 24.7 |
73 | セルビア | 24.7 |
75 | 南アフリカ | 24.3 |
76 | ガアテマラ | 24.2 |
76 | トルクメニスタン | 24.2 |
78 | ジョージア | 24 |
79 | コートジボワール | 23.9 |
80 | エルサルバドル | 23.8 |
80 | ザンビア | 23.8 |
82 | ボリビア | 23.3 |
83 | チリ | 23.1 |
84 | マダガスカル | 22.5 |
85 | バルバドス | 22.4 |
85 | トリニダード・トバゴ | 22.4 |
87 | ギニア | 22.2 |
88 | マラウイ | 21.9 |
89 | グレナダ | 21.8 |
90 | キューバ | 21.6 |
90 | ガイアナ | 21.6 |
92 | ホンジュラス | 21.5 |
92 | ポーランド | 21.5 |
94 | セントビンセント・グレナディーン | 21.4 |
95 | セントルシア | 21.2 |
96 | ナミビア | 21 |
97 | ベリーズ | 20.9 |
97 | ボツワナ | 20.9 |
97 | メキシコ | 20.9 |
100 | ブルガリア | 20.8 |
101 | シエラレオネ | 20.6 |
102 | イスラエル | 19.4 |
102 | ウクライナ | 19.4 |
104 | ベラルーシ | 19.3 |
104 | モンテネグロ | 19.3 |
106 | ジンバブエ | 19.1 |
107 | バハマ | 19 |
107 | ニカラグア | 19 |
109 | ドミニカ国 | 18.8 |
110 | フィリピン | 18.7 |
111 | コモロ | 18.6 |
111 | セーシェル | 18.6 |
113 | アゼルバイジャン | 18.5 |
114 | モザンビーク | 18.4 |
115 | シンガポール | 18.3 |
116 | アルバニア | 18.2 |
116 | 東ティモール | 18.2 |
118 | アンティグア・バーブーダ | 18 |
118 | スロバキア | 18 |
120 | クロアチア | 17.6 |
121 | キルギス | 17.4 |
122 | マレーシア | 17.3 |
123 | コロンビア | 17.2 |
124 | キプロス | 17.1 |
125 | リベリア | 17 |
126 | ベネズエラ | 16.8 |
127 | コスタリカ | 16.7 |
128 | モルドバ | 16.5 |
129 | ギリシャ | 16.4 |
129 | インドネシア | 16.4 |
129 | スロベニア | 16.4 |
132 | ハンガリー | 16.3 |
133 | スワジランド | 16.2 |
134 | イタリア | 15.7 |
135 | チェコ | 15.6 |
136 | エクアドル | 15.5 |
137 | ルーマニア | 15.4 |
138 | スリランカ | 15.1 |
139 | ハイチ | 14.7 |
139 | ロシア | 14.7 |
141 | カザフスタン | 14.5 |
142 | ラトビア | 14.4 |
143 | マルタ | 14 |
144 | ジャマイカ | 13.6 |
145 | モーリシャス | 13.5 |
146 | サンマリノ | 13.4 |
147 | ドミニカ共和国 | 13.3 |
148 | オーストリア | 13.1 |
149 | ベルギー | 13 |
150 | ナウル | 12.5 |
151 | フランス | 12.4 |
151 | パラオ | 12.4 |
153 | リトアニア | 12.3 |
153 | セントクリストファー・ネイビス | 12.3 |
155 | モナコ | 12.2 |
156 | オランダ | 12.1 |
157 | パナマ | 12 |
158 | ドイツ | 11.9 |
159 | ブラジル | 11.8 |
159 | 日本 | 11.8 |
161 | アルゼンチン | 11.7 |
161 | パラグアイ | 11.7 |
163 | アンドラ | 11.5 |
163 | パプアニューギニア | 11.5 |
163 | ソロモン諸島 | 11.5 |
166 | バヌアツ | 11 |
167 | キリバス | 10.9 |
167 | サモア | 10.9 |
169 | イギリス | 10.6 |
170 | フィジー | 10.5 |
170 | ミクロネシア | 10.5 |
172 | ルクセンブルク | 10.4 |
172 | スイス | 10.4 |
174 | デンマーク | 10.3 |
175 | トンガ | 10.2 |
176 | スペイン | 9.8 |
177 | アイルランド | 8.7 |
177 | ウルグアイ | 8.7 |
179 | ポルトガル | 8.1 |
180 | ノルウェー | 7.8 |
181 | モルディブ | 7.7 |
182 | アメリカ | 7.6 |
183 | オーストラリア | 7.3 |
184 | エストニア | 7 |
185 | カナダ | 6.7 |
186 | フィンランド | 6.5 |
187 | スウェーデン | 6.1 |
188 | アイスランド | 5.9 |
189 | ブルネイ | 5.8 |
189 | ニュージーランド | 5.8 |
ー | 世界平均 | 39.6 |
(出典:WHO 世界保健統計2018年版より)
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