現在さまざまな分野でAI(人工知能)の技術が活用されています。
企業もこぞってAIを活用し、今は一種のAIブームともいえる状況になっています。
実はこのAIの第3次ブームのきっかけを作ったのは、ボードゲームの囲碁と米グーグル社の天才プログラマーとの対決にあるといっても過言ではありません。
今回は最新のAI研究ランキング、そしてAI対人間の歴史についてご紹介します。
(前回記事→囲碁七大タイトル獲得数ランキング - Shoko-Ranking)
最初にご紹介するのは2019年のAI研究ランキングです。
このランキングは、世界的に有名なAI研究会議「NeurlPS」および「ICML」で採択された2200の論文をもとに、米マサチューセッチュ工科大学のAI研究者グレブ・チュブピロ氏が論文の著者と組織を特定し、その出版物インデックスをポイント化しランキングしたものです。
AI Research Rankings 2019: Insights from NeurIPS and ICML, Leading AI Conferences
AI(人工知能)研究が進んでいる国ランキングTop20
順位 | 国名 | Indexポイント |
---|---|---|
1位 | アメリカ | 1260.2 |
2位 | 中国 | 184.5 |
3位 | イギリス | 126.1 |
4位 | フランス | 94.3 |
5位 | カナダ | 80.3 |
6位 | ドイツ | 64.5 |
7位 | スイス | 59.3 |
8位 | 日本 | 49.4 |
9位 | 韓国 | 46.8 |
10位 | イスラエル | 43.3 |
11位 | オーストラリア | 27 |
12位 | インド | 17.1 |
13位 | オランダ | 15.3 |
14位 | シンガポール | 13.2 |
15位 | デンマーク | 12.2 |
16位 | イタリア | 11.5 |
17位 | スウェーデン— | 11.3 |
18位 | ロシア | 10.6 |
19位 | フィンランド | 9.6 |
20位 | オーストリア | 7.4 |
(出典:AI Research Rankings 2019: Insights from NeurIPS and ICML, Leading AI Conferences)
AI(人工知能)研究が進んでいる企業ランキングTop20
順位 | 企業名 | Indexポイント |
---|---|---|
1位 | Google(アメリカ) | 167.3 |
2位 | Microsoft(アメリカ) | 51.9 |
3位 | Facebook(アメリカ) | 33.1 |
4位 | IBM(アメリカ) | 25.8 |
5位 | Amazon(アメリカ) | 14.3 |
6位 | Tencent(中国) | 8.8 |
7位 | アリババ(中国) | 7.5 |
8位 | ボッシュ(ドイツ) | 2.2 |
9位 | Uber(アメリカ) | 7.1 |
10位 | Intel(アメリカ) | 6.9 |
11位 | トヨタ(日本) | 6 |
12位 | Yandex(ロシア) | 5.8 |
13位 | Baidu(中国) | 5.5 |
14位 | Nvidia(アメリカ) | 5.2 |
15位 | Apple(アメリカ) | 4.6 |
16位 | Salesforce(アメリカ) | 4.2 |
17位 | PROWLER.io(イギリス) | 4.2 |
18位 | Criteo(フランス) | 3.9 |
19位 | Huawei(中国) | 3.7 |
20位 | NEC(日本) | 3.5 |
(出典:AI Research Rankings 2019: Insights from NeurIPS and ICML, Leading AI Conferences)
AI研究ではアメリカが首位を独走
国別ランキングでは首位アメリカが2位中国を大きく引き離しています。
これは特にグーグルを筆頭にマイクロソフト、フェイスブック、IBMなどのIT企業やスタンフォード大学、マサチューセッチュ工科大学など大学の研究によるところが大きいです。
そしてアメリカを追いかける中国は、”BATH"=テンセント、アリババ、バイドゥ、ファーウェイなどのIT企業や大学によって牽引されています。
一方、日本の状況ですが、国別では米中に大きく離され8位となっています。
ボードゲームにおける「人類 対 AI」の歴史
1997年チェスの世界王者が人口知能に敗れる
AIの歴史を語るうえで、ボードゲームでの人類対AIの勝負の歴史は外すことができません。
1997年、米IBMのスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」が当時のチェス世界王者ガリル・カスパロフを破るという衝撃的なニュースが報じられました。
カスパロフは23年間にもわたり世界ランキング1位を保持し「100年に1度の天才」と言われるほどの逸材でした。
そして、チェスは「人間の究極の知性」と表現されるほどに奥の深いゲームです。実際にチェスの局面数はすべての変化を追いかけるとそのパターン”10の120乗”という天文学的な数字になると言われています。
そのためヨーロッパでは、あらゆるボードゲームの頂点に君臨する「キング・オブ・ゲーム」という称号さえ与えられていました。それだけに、コンピューターがトッププロを破ったという事実は、世界中のチェスプレーヤーに大きなショックを与えました。
「機械が人間に勝てない唯一のゲーム」と言われた囲碁
とはいえ、世界のトッププログラマーたちはコンピューターが人間の頭脳を上回ったとは考えませんでした。
それは、東洋にある「囲碁」というとてつもないゲームの存在が知られていたからです。局面数はチェスを大きく上回る”10の360乗*”とも言われ、まさに無限の変化パターンがあります。(*最近の研究では”2.081681994×10^170”)
チェス対局で勝利した「ディープ・ブルー」は言わば力技ですべての可能性を計算して戦うことで勝利しました。しかし、囲碁の局面数はほぼ無限にあるため、日進月歩で指数関数的に進化するコンピューターにとっても、処理能力の限界を超えていました。
実際に、その後何年たっても囲碁においてはコンピューターがプロ棋士はおろかアマチュア有段者にすら勝てない状況が続きました。
そしていつしか、「囲碁は機械が人間に勝てない唯一の対戦ゲーム」とすら言われるようになります。
天才プログラマーが囲碁AI開発に乗り出す
この囲碁の世界にAIで挑戦したのが米グーグル社です。2014年当時はほとんど無名だった英ベンチャー「ディープマインド」社を買収し、本格的にAI事業に参入しました。
グーグルが「ディープマインド社」を買収したのには理由がありました。それは希代の天才プログラマー デミス・ハサビスの存在です。
デミス・ハサビスはかつてはチェスの神童としても名を馳せ、他にも将棋・ディプロマシー・ポーカーなど多くのゲームに精通していました。そのハサビスが「AIのアポロ計画」として創業したのが「ディープマインド」社です。
ハサビスは”ディープ・ラーニング(深層学習)”というシステムを導入しました。これは人間の神経細胞(脳神経)の仕組みを基にして作られたものです。
そしてこのシステムを使って開発されたのが、囲碁AIの「アルファ碁」です。
アルファ碁はディープラニングシステムとコンピューター自身による機械学習を組み合わせたことで驚異的な棋力を身につけました。
過去の膨大な棋譜をすべて学習したうえで、このディープラーニングを用いてコンピューター同士で対局を繰り返して自己学習していく方法です。
ついにAIが最強囲碁棋士を破る
2016年3月、世界最強棋士の1人とされていた韓国の李世ドル(当時の世界レーティング3位)とアルファ碁が対局した5番勝負は、李世ドルが1-4で敗れ、その衝撃的なニュースは世界中で報じられました。
この時の対局は全世界に同時中継され、2億8000万人が視聴したと言われています。
さらに翌年の2017年5月、アルファ碁(マスターver)は人類最強棋士との呼び声高い中国の柯潔(カ・ケツ)=世界レーティング1位(当時)と対決しました。
この勝負はまさしく「人類対AIの”最終決戦”」と呼ばれました。
その結果、アルファ碁(マスター)が3-0で柯潔にストレート勝ちを収めました。
敗れた柯潔は対局後、東亜日報の取材に対して「アルファ碁と碁を打つのは苦しかった。対局中、勝てるという希望を全く持つことが出来なかった」と感想を述べました。
そして、アルファ碁はその試合をもって人間との試合を引退することとなりました。
AIとプロ棋士の対局はその後も続きましたが、実質的な決着はこれらの対局でついたと言えます。
李世ドルと柯潔という2人の世界トップ棋士の敗北は、囲碁史とAI史それぞれに残る歴史的ターニングポイントになりました。
そしてアルファ碁の目覚ましい実績によって、世界のAI開発はこの”ディープラーニング”システムに絞られていきました。
「アルファ碁」に圧勝。教育も不要な「アルファ碁ゼロ」現れる!
しかし、AIの進化はこれだけにとどまりませんでした。
2017年10月「アルファ碁マスター」の進化版として、強化学習機能を搭載した「アルファ碁ゼロ」が発表されました。そしてアルファ碁マスターとの対戦では100戦して89勝したと伝えられました。
しかし、驚くことに、アルファ碁ゼロが教わったのは囲碁のルールだけです。
その後はAI同士の自己対局をひたすら繰り返すのみで成長を遂げ、最強の打ち方を編み出しました。
これまでのAIは人間の膨大な対局棋譜を記憶させていたのに対し、「強化学習」機能を搭載した新バージョンでは人間の教育すら必要としないということになりました。
囲碁AIはその後も各国で開発が続き、日本や中国でも優秀な囲碁AIが開発されました。
世界電脳囲碁オープン戦では、17年に日本の「Deep ZenGO」が優勝し、18.19年には中国の「GOLAXY」「絶芸」がそれぞれ優勝しました。
今も囲碁人気と共にAIブームが続く中国においては、囲碁AIがAI研究開発のシンボル的存在になっています。
また日本の将棋界においても、2017年将棋AI「Ponanza」が佐藤天彦名人(当時)を2-0で破り大きな話題になりました。
AIの技術は様々な分野に応用
2019年7月 囲碁専用AI「アルファ碁ゼロ」から更に進化した「アルファゼロ」が発表されました。
名前から囲碁の文字を消すとともに、囲碁だけでなくチェスも将棋も指すことができるAIです。いずれも自己対局のみで戦略を学習し、学習からわずか24時間以内に最強将棋AI、最強チェスAI、アルファ碁ゼロの全てを撃破するまでになりました。
これらのAIの強さのベースとなっている「ディープラーニング」のシステムは極めて高い精度を誇り、場合によっては人間以上の認識精度にまで高めることも可能となっています。
そして、この技術を生かしているのが自動運転技術です。道路標識や停止標識を認識したり、電柱と人間を区別したりできるようになりました。
またグーグルだけでなく、IBMも「Watson(ワトソン)」という名称で進化させていて、自動会話、画像認識、音声認識、性格分析などのサービスを提供しています。
AIは人間を超えるか⁈
しかし、AIが人間の知能を超えるかというとまだまだ難しいという見方が大勢です。
それは一つのタスクに限定すれば、人間以上の能力を発揮します。しかし、「音声認識と画像認識」など複数の領域にまたがるとまだまだ人間には及ばないというのが現在のAIの実情です。
現在グーグル社の最新の研究は、万能AIの開発です。一つのモデルに「音声認識」と「画像認識」などの複数のタスクを学習させていき、最終的には100万種類機を超えるタスクが処理できる万能AIモデルの構築を目指しています。
もしも、このシステムが構築できることになれば、あらゆるタスクが自己学習で完結し、本当の意味で人間の関与が不要なAIが誕生するかもしれません。
まとめ
- AI研究の国別トップは米国、企業トップはグーグル
- 人類対AIの歴史。1997年コンピューターがチェス王者を破る。
- グーグル傘下となったハサビスが「ディープラーニング」を使った囲碁AIの開発に乗り出す。
- 2016年についにAI(人工知能)の「アルファ碁」が世界トッププロを破る
- 翌年には教育不要のAI「アルファ碁ゼロ」誕生、「アルファ碁」を破る。
- 現在、進化したAIは様々なジャンルに応用されている