今回は絶滅危惧種の国別ランキングです。
絶滅危惧種とは
国際自然保護連盟(IUCN)が世界の絶滅危惧種をまとめたレッドリスト・2019年版では、10万5732種の動植物を評価し、そのうち2万8333種が絶滅危惧種であると指定しました。
その要因として乱獲による個体数の減少や森林破壊などの人的活動、そして気候変動による生態系の変化で生物多様性が脅かされていると警告を発しています。
IUCNは、野生生物(動物、植物、菌類・原生生物)の危機レベルを以下の8つのカテゴリーに分類して評価しています。
レッドリストのカテゴリー
EX:絶滅種・・すでに絶滅
EW:野生絶滅・・野生では絶滅
CR:深刻な危機種・・野生絶滅の危険性が極めて高い種
EN:危機種・・CRほどではないが野生での絶滅の危険性が高い種
VU:危急種・・絶滅の可能性が増大している種
NT:純絶滅危惧種・・環境変化によっては絶滅危惧種になる可能性の高い種
LC:低懸念種・・現時点ではまだ絶滅の可能性が低い種
DD:情報不足・・評価するための情報が不足している種
(IUCN「Red list 2019-1」)
主な絶滅危惧種(CR.EN.VU)
□CR(深刻な危機種)・・クロサイ、オランウータン、ヨーロッパミンク、アムールヒョウなど
□EN(危機種)・・チンパンジー、マウンテンゴリラ、ラッコ、アムールトラ、コウノトリ、タスマニアデビルなど
□VU(危急種)・・ライオン、チーター、ユキヒョウ、ホッキョクグマ、ジャイアントパンダ、マンドリル、アフリカゾウ、アジアゾウ、コアラ、カバ、ジュゴン、セイウチ、フンボルトペンギンなど
霊長類と大型肉食獣多い
この絶滅危惧種のレッドリストからは、霊長類と大型肉食獣が多く含まれていることがわかります。
霊長類は約500種のうちの実に60%が絶滅の危機にあります。
人類にとっても近縁種と言えるゴリラ、チンパンジー、オランウータンも先のレッドリストに記載の通り、絶滅の瀬戸際にあります。
オランウータンはこの16年間で15万頭も減少していて減少ペースが極めて速いと指摘されています。
マウンテンゴリラも生息数がわずか900頭まで減少していると報告されています。
霊長類の個体数減少の主な要因は、生息地の破壊に狩猟と病気が大きな理由とされます。
また大型肉食動物(ネコ科、イヌ科、クマ科)もライオン、チーター、ユキヒョウ、アムールトラ、ホッキョクグマ、ツキノワグマ、ジャイアントパンダなど多くの種が個体数を減らして絶滅の危機に瀕しています。
こちらの要因としては、トロフィーハンティングも含めた狩猟行為と人間や家畜に害をなす害畜として多くの個体が駆除されたことがその大きな理由です。
更にこの100年に至っては生物の絶滅スピードが急激に加速しています。近代以前に比べるとおよそ50倍もの速度で進んでしまっているとの報告があります。
世界の絶滅危惧種数ランキングワースト10
順位 | 国・地域名 | 絶滅危惧種数 |
---|---|---|
1位 | エクアドル | 2388種 |
2位 | マダガスカル | 1929種 |
3位 | アメリカ | 1600種 |
4位 | インドネシア | 1399種 |
5位 | マレーシア | 1311種 |
6位 | メキシコ | 1284種 |
7位 | タンザニア | 1160種 |
8位 | 中国 | 1115種 |
9位 | インド | 1078種 |
10位 | ブラジル | 1039種 |
参考 | 日本 | 430種 |
世界 | 2万8338種 |
(出典:IUCN「Red list 2019-1」)
上位国はすべて大幅増加
世界全体では前年を大きく上回る2万8338種となっていて、特にエクアドルは前年はワースト10位圏外から一気に1800種以上増えて1位となっています。
2位のマダガスカルは霊長類の減少が顕著で90%が絶滅の危機に瀕していると報告されています。
3位のアメリカも順位は下がったものの、危惧種数は前年比で大幅増加しています。
日本も2018年の372種から430種へと増加しています。中でも魚類が33種新たに絶滅危惧に加えられました。
特に淡水魚は開発や外来生物などの影響によって深刻な危機に直面しています。
絶滅したオオカミの再導入例
生態系ピラミッドの頂点にいる大型肉食動物は、とかく人間と衝突することが多く、特に銃器の発明以降は常に駆除の対象となってきました。
しかし、生態系における大型肉食動物の個体数が相対的に減ってきているため、本来の捕食対象である草食動物とのバランスが崩れ、結果的に生態系全体にも悪影響を及ぼしてしまうことが明らかになっています。
次にご紹介するのは、北米のイエローストーン国立公園における驚くべき事例です。
イエローストーンでは1930年代にオオカミが姿を消しました。家畜を捕食する害獣とみなされ駆除されたからです。
しかしオオカミがいなくなったことでその後数十年で、大型の鹿、エルク(ワピチ=エメリカアカシカ)が大繁殖しました。
オオカミに襲われることの無くなったエルクなどの草食動物はポプラなどの若芽を食べつくし、その結果草原の草がなくなり、コヨーテも急増し生態系が崩れました。
生態系に大きな影響が出たことを問題視した行政は、長い議論を経て95年、96年にカナダから合わせて31頭のハイイロオオカミ(=タイリクオオカミ)を運び入れ、イエローストーン国立公園に放つことを試みました。
再導入で生態系が見事に回復
オオカミを再導入したイエローストーン国立公園でその後どのような変化が起こったかをまとめると以下の通りです。
- オオカミを再導入した結果、エルクは行動変容しポプラやヤナギなどの植生が回復。
- オオカミによってコヨーテの活動範囲が狭まり鳥類が増加。
- ポプラを餌としていたビーバーが増加。
- ビーバーが川を整備するようになり、川には魚や両生類が増加。
- 土壌浸食は抑制され川が緩やかになり、浅瀬が出来た。
オオカミ再導入によって、緑豊かになり最終的に浅瀬が生まれたという連鎖反応は、まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」を想起させます。
またオオカミの頭数ですが、国立公園内では当初の31頭が一時期は150頭まで増加したそうです。しかし、その後は縄張り争いや感染症で頭数を減らしていき、現在は100前後で安定しているとの事です。
また、実はエルクの頭数もあまり減っていないようです。観察の結果わかったことは、植生が回復した大きな理由は、エルクの頭数減少ではなく行動の変化にあるようです。
オオカミへの警戒から川岸に滞在する時間が短くなり、その結果ヤナギなど川べりに植生する樹木が茂るようになったということです。
それにしてもオオカミが自然に戻ることによって生態系がここまで見事に回復することは、誰も予測できなかったのではないでしょうか。
現在、日本においても大分県豊後大野市や北海道の知床半島などで絶滅したニホンオオカミにかわるハイイロオオカミ再導入の議論があります。
しかし人や家畜への危害の懸念や有事の際の責任と補償などの問題が障壁となっていて、まだまだ慎重な意見が根強いようです。
前述のイエローストーンの事例でも、牧場主と環境保護団体でなかなか話がまとまらず、実際にプロジェクトが実現するまでに20年もの歳月を要しています。
しかし、この成功例をロールモデルとして、その後デンマーク、ドイツ、イタリア、スコットランドなどでNGO団体を中心に絶滅したオオカミの再導入の提唱が今も世界各地で行われていているようです。
生物多様性からの恩恵
われわれ人類は、自然の生態系がわれわれが想像しているより、はるかに複雑に出来ているようです。
私たちが日々、様々な“恵み”を受けているのは、この地球の生物多様性からの恩恵であり、これを“生態系サービス”と言われています。
生物多様性は、食物のみならず、クリーンな水や空気、医薬品原料など、様々な恵みをもたらしてくれており、これらの恵みは私たちが生きていくために欠かせないものとなっています。
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